
ハッカーの侵入は“デジタル”より“アナログ”から始まる
著者: 管理者 / 2025-08-12 (更新: 2025-08-12)
― 経営リスクとしての情報漏えい ―
経営会議では、最新のサイバー攻撃事例やセキュリティシステムの導入について議論されることが多いでしょう。
しかし、現場の実態を見れば、ハッカーが最初に手を伸ばすのは、必ずしもネットワークの奥深くではありません。
侵入の起点は、意外にも「ゴミ袋」と「何気ない会話」から始まるケースが少なくないのです。
ゴミ袋が突きつける経営リスク
ダンプスター・ダイビング──廃棄物から情報を拾い出す手口は、IT技術を必要としない原始的な攻撃です。
しかし、その破壊力は侮れません。
未処理の契約書や顧客リスト、会議資料、さらには設定メモやパスワードの書き込みまで。
これらが廃棄物として外部に流出すれば、競合への情報流出や、標的型攻撃の足掛かりとなります。
実際、海外の調査では約37%の廃棄ドライブから重要情報が回収されたとの報告もあり、物理的な情報漏えいは統計的にも無視できない水準です。
このリスクは、情報資産管理の不備として内部統制やコンプライアンス上の重大問題に直結します。
会話から始まるソーシャルエンジニアリング
もうひとつの典型が、ソーシャルエンジニアリング。
これは、従業員や関係者との会話ややり取りを通じて、重要な情報を聞き出す手法です。
-
社内の人物を装って電話でシステム情報を聞き出す
-
取引先を装って資料送付を依頼する
-
社員がSNSに投稿した写真から社内レイアウトや機器情報を特定する
調査によれば、データ漏えいの約7割が人的要因によるもので、その多くが心理操作や不注意によって発生しています。
つまり、ハッカーにとっては一人の従業員が最大の侵入口になり得るのです。
なぜアナログな手口が効くのか
-
防御意識の盲点
デジタルセキュリティには投資しても、廃棄物管理や会話の教育は軽視されがちです。 -
低コスト・低リスク
ゴミ漁りや電話詐欺は、侵入テストやマルウェア開発よりも安価で、痕跡も残りにくい。 -
人的要因の多さ
完全に制御できない“人の行動”が、最も脆弱なポイントになります。
経営リスクを低減するための対策
経営層が取るべきは、IT部門任せにしない全社的なアナログセキュリティ対策です。
-
廃棄物管理の徹底
書類はクロスカット型シュレッダーや溶解処理、記録媒体は物理破壊。 -
従業員教育
雑談やSNS投稿も情報流出につながるリスクを理解させる。 -
物理的アクセスの制御
ゴミ捨て場やバックヤードへの立ち入りを制限し、外部業者も監視する。
結びに
サイバー攻撃という言葉から想像する世界は、画面の向こうのデジタル空間かもしれません。
しかし、ハッカーの現実的な出発点は、企業の裏口――すなわちアナログの隙間です。
経営資産とブランド価値を守るためには、システム防御だけでなく、現場のゴミ袋や一言の会話にも同じだけの注意を払う必要があります。